【あなたを忘れない】家族と野菜に愛注いだ母 おふくろの味懐かしむ 大和田トキさん 当時83 福島県楢葉町

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【あなたを忘れない】家族と野菜に愛注いだ母 おふくろの味懐かしむ 大和田トキさん 当時83 福島県楢葉町

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穏やかで愛情深い母親だった。福島県楢葉町波倉地区の大和田トキさん=当時(83)=は東日本大震災の津波で亡くなった。畑仕事に精を出し、季節の野菜で食卓を彩った。「怒られた記憶がないほど優しかった。そばにいるのが当たり前だったんだ」。2人暮らしをしていた三男の和夫さん(69)は温和な表情を思い浮かべ、墓前に手を合わせた。








トキさんは浪江町の大堀相馬焼の窯元の長女に生まれ、楢葉町に嫁いだ。夫の和[やわら]さんを1996(平成8)年に亡くした。長男と次男は家を出たため、和夫さんとの2人暮らしが長かった。海から約200メートル西にある自宅周辺の畑や田んぼでまめに働いた。育てた野菜を使った漬物などの「おふくろの味」は、和夫さんの活力源だった。
「行ってくるよ」「行ってらっしゃい」。いつも通りの親子の会話が最後になった。あの日、大きな揺れに襲われた和夫さんは、勤め先の富岡町の金融機関から急いで帰った。自宅があったはずの場所に建物はない。「津波だ」。高台に向かうと住民が避難していたが、トキさんはいない。誰も自分に声をかけようとしない状況に「逃げなかったんだ」と察した。改めて自宅を目指したが泥とがれきに行く手をはばまれた。
翌日から捜索するはずだったが、東京電力福島第1原発事故に伴う避難を余儀なくされた。5月上旬、トキさんが自宅付近のがれきの中から見つかったと伝えられた。相馬市の体育館で対面したが姿からは判別がつかず、DNA鑑定を要した。町が行った火葬に、和夫さんと兄2人、トキさんの弟の4人のみが立ち会った。「かわいそうなことをした」。心残りは今もある。








和夫さんは県内外やいわき市へ避難し、退職後の2017年に町内の災害公営住宅に入った。発災から5年は全てを失った孤独感の中にいたが、地域のつながりの中で前を向きつつある。最近になってやっと、料理であの味が出せるようになってきた気がする。健康に生きることが引き続きの親孝行だ。「優しい人だからずっと心配しているはず。元気で暮らしているから安らかにね」。当たり前だった母との日々と失って気付いた日常の価値をかみしめて15年が過ぎた。