福島のニュース
「全国で鳥獣被害が深刻化する中、福島だけが対策できずに取り残されてしまう」「狩猟の風習・文化が失われるのではないか」。東日本大震災、東京電力福島第1原発事故の発生から15年が過ぎた。今年度の福島県の検査では県内の野生鳥獣で放射性物質の基準値を超えたのは376点中25点と1割に満たない。それでも出荷制限などが続く現状に県内の狩猟関係者から悲痛な声が上がる。
原発事故を受け、食品中の放射性セシウムの基準値は1キロ当たり100ベクレルと定められ、超過した場合は制限をかける徹底した対策が取られてきた。国際的に見ても厳しい基準は、県産農林水産物の風評を防ぐ「傘」になったと評価される。半面、規制解除の見通しが立たない品目は多く、山の営みを妨げる「足枷[かせ]」ともなり続けている。
県猟友会長の芥川克己(76)=会津坂下町=は「捕っても食えない、売れないとの考えが定着し、狩猟意欲の低下を招いた」と現状を憂う。
県内では、郡山市の食肉処理施設で管理されたシカを除き、熊やイノシシなどで解除されない状態が続く。捕獲しても食肉の販売などができないため、埋設処分を余儀なくされる。「以前のように活用できずに葛藤を抱える会員は多い」。狩猟の危険性ともはかりにかけ、銃を持ち続ける会員は減っている。熊の目撃が急増した昨年は会員の調整がつかず、1人が複数の現場に出動せざるを得ないなどの影響が出た。
狩猟文化の継承のため、芥川は制限の解除に望みを託す。ただ、原発事故発生前と同じく検査不要で出荷できる状態に戻るためには、地域で「安定的に基準値を下回る」との条件を満たさなければならない。放射性物質の濃淡がある山中の野性鳥獣は餌などによって基準値を超える個体も出るため、関係者は「現在の基準のままでは解除の見通しは立たない」と受け止める。
鳥獣の移動を考慮すると、外縁10キロ圏内の地域で基準値超が出ないかも加味されるため、解除の難易度は飛躍的に上がる。西会津町猟友会員の小林雅弘(70)は「何年間で、何頭を捕れば解除されるか不明瞭だ。近隣の状況を踏まえないといけないほど厳しい基準そのものが風評の影響のように感じる」とし、地域ごとの柔軟な基準の運用を訴える。
基準値の緩和を含め現在の仕組みの見直しを求める声は高まっている。ただ、国が薬事・食品衛生審議会の議論を経て現行の基準を適用した2012(平成24)年4月以降、緩和などの検討はなく、専門家による放射性物質対策部会は一度も開催されていない。消費者庁の食品衛生基準審査課は「現時点で議論の予定はない」と述べるにとどめ、理由の明言を避ける。
「『寝た子を起こすな』の空気がまん延している」。基準値の見直しを目指す自民党の国会議員の間では、霞が関の動きの鈍さがこうやゆされている。福島県関係の議員の一人は内情をこう推察する。「現行の基準が定着した今、新たな値を消費者に納得してもらうためには多大な労力や予算を要するからではないか」
震災、原発事故の発生後、福島県は風評との長い闘いを強いられてきた。年月の経過とともに記憶の継承や応援の機運の低下など風化も顕著になりつつある。国はリスクコミュニケーションや情報発信に注力したとするが、国内外で正しい理解醸成は道半ばだ。さまざまな分野で続く「二つの風」の影響と課題を追った。(文中敬称略)

