【復興検証 震災・原発事故15年】 第6部 風評・風化❷ 消費者庁に突如移管 規制緩和の糸口見えず

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【復興検証 震災・原発事故15年】 第6部 風評・風化❷ 消費者庁に突如移管 規制緩和の糸口見えず

福島のニュース


食品1キロ当たりの放射性セシウムの上限を100ベクレルと設定した現行の基準値。東日本大震災、東京電力福島第1原発事故の発生から年月が経過するにつれ、現状との乖離[かいり]を指摘する声はより強まっている。
基準の設定に当たり、政府は1年間摂取し続けても追加被ばく線量1ミリシーベルトに及ばないようにする値を算出した。試算では、国産食品全てが「汚染」されていると仮定。流通する食品のうち上限の放射性物質を含むのは全体の5割にも達するとしている。この設定は今も変わらず「近年の確認検査で福島県産農林水産物は95%が検出下限値未満なのに…」「事故直後の緊急時の考え方ではないか」と県内で疑問視する関係者は少なくない。
消費量が少ない野生の鳥獣やキノコ、山菜にもこの値は等しく適用される。長く出荷制限が続く中、林産品などの採取で生計を立てていた人が廃業を余儀なくされるなど深刻な影響も広がる。自民党など与党は2021(令和3)年度から本格的に、見直しを視野に科学的、合理的な観点から基準の速やかな検証などを行うよう政府に求めてきた。
ただ、再三の提言にもかかわらず議論は始まらず、「規制緩和の見通しは糸口さえ見えない」と悲観する声も広がる。さらなる「逆風」と懸念されるのが、突如行われた厚生労働省から消費者庁への食品衛生基準行政の移管だ。
未曽有のパンデミック(世界的大流行)を受け、政府は感染症対応能力強化の必要性が増したことで厚労省の組織体制や役割の見直しを進めた。結果として、食品衛生については厚労省に監督・指導などの機能を残す一方、2024年度から基準の策定業務は消費者庁が担うようになった。基準の設定で深めた議論や知見をこれまで担当した消費者への安全啓発などにも生かす狙いがある。同庁食品衛生基準審査課は「科学的知見に基づいた基準を策定する基本的な枠組みは変わらない」と強調。リスクの分析に重点を置く考えを示す。
生産者側でなく消費者側の立場の省庁への移管に対し、放射性物質基準の合理的な議論を求める福島県関係者の心中は複雑だ。自民党東日本大震災復興加速化本部事務局長代理を務める参院議員星北斗は、食品衛生行政の分野で消費者保護の考え方にはかりの針がより傾くとの見立てを示した上で「基準値の緩和は難しくなるのではないか」と懸念を口にした。
状況を打破するため、昨年夏の与党提言では「流通前の野生キノコ、山菜、ジビエなど放射性物質の摂取量推定を行うとともに、特別の区分を設けての対応を検討すること」との一文が盛り込まれた。食品全体の検証や見直しでなく、消費量が少ない品目のみに絞った対応の検討を求める内容で国際基準でも取られている措置だ。
消費者庁は摂取量推定の検討に入る考えを示すが、「着地点」は未知数だ。星は「山の恵みを未来永劫[えいごう]受けられないような事態があってはならないとのメッセージを提言に込めた」とし、国に早急な対応を注文した。
出荷制限の解除後も売り上げが元に戻らない産品や地域もある。消費者への安全の情報発信の在り方が改めて問われている。(文中敬称略)