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福島県相双地方の産業興業に生涯をささげた小高町(現南相馬市小高区)出身の実業家・半谷清寿(1858~1932年)の先見の明と120年前の代表的著書「将来之東北」を、今を生きる人々の羅針盤として伝えたい。東北の新興企業を支える投資会社「スパークル」(本社・仙台市)の福留秀基社長(33)は半谷の生き様に感銘を受けた。偉人の卓見に光を当て、人材育成に役立てようと動き出した。人工知能(AI)を活用し現代語訳で復刻させ、今秋の出版を目指す。「将来之東北」は東北地方が大凶作に見舞われた1906(明治39)年に出版された。疲弊する農村を目の当たりにした半谷は東京に依存した経済構造からの脱却を目指して自らの考えをまとめた。風土に根ざした産業戦略の策定、豊富な水資源を生かした水力発電による地元の工業化、地域課題を調査分析するシンクタンク「東北調査会」の設立などを提唱した。後に総理大臣を務めた原敬、帝都復興院総裁として関東大震災の復興計画を立案した後藤新平ら東北出身の政治家や知識人も著書の内容を評価したという。福留さんはベンチャー企業支援を通じ、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故からの復興に汗を流している。人口減などの地域課題に向き合う中で、閉塞感を打破するような羅針盤を求めていた。1年前に「将来之東北」を取り上げたコラムを目にし、「地方創生の先駆者だ」と魅了された。震災発生から15年を迎え、地域の課題は複雑・多様化。地元を見つめ直すきっかけにしたいとの思いで著書の復刻を決意した。原著は漢文訓読体で難解な内容が多い。沖縄県のAIスタートアップ企業「スタジオユリグラフ」の技術を駆使し、平易な現代語に訳す作業に着手した。AIで対応しきれない微妙なニュアンスや歴史的背景などの確認が必要な部分は東北大の歴史学者が監修し、考証面で助言を受ける。東北に思いを寄せる各界の著名人から寄稿を募る方針で、幅広い世代に東北の未来を考えてもらうための一冊としたい考えだ。半谷の考えに触れるシンポジウムの開催、高校生向けの教材としての活用など構想を膨らませている。福留さんは「東北に暮らす人たちが誇りを持って地域を論じるための本にしていきたい」と展望する。研究者、地元期待の声研究者や半谷清寿の地元からは「郷土の偉人を広く知ってもらえるきっかけになる」と期待の声が高まっている。ひ孫の半谷栄寿[えいじゅ]さん(72)=南相馬市原町区=は、曽祖父である清寿の逸話を、祖父で元小高町長の専松[せんまつ]さんから聞いて育った。「周りの人が見抜けない将来の価値を直感し、実現した人物」と評し、「『将来之東北』は東北の創生に今でも役に立てる本だと思う。これからの東北には清寿のような先駆者が不可欠」と新たな人材を育むことに期待感を示した。小高区の偉人に詳しい埴谷・島尾記念文学資料館主査の寺田亮さん(50)は「(復刻は)東北が振興すべき事業や自然利用について見直す良い機会になる」と述べた。2018(平成30)年に半谷の業績を紹介する著書を出版した愛知学院大教養部の柴田哲雄准教授(57)は、約60年前に東北史の第一人者である高橋富雄東北大名誉教授が「将来之東北」を「東北開発の古典読本」と高く評価した話に触れ、「この評価は現代でも変わらない。半谷の主張は注目に値する」と価値を説明した。クラウドファンディングの概要スパークルは出版資金を募るクラウドファンディング(CF)を実施している。目標金額は430万円で、期間は4月30日まで。返礼品には完成した「現代語訳版将来之東北」や小冊子を用意している。詳細はCFのページで。半谷清寿(はんがい・せいじゅ)の略歴1858(安政5)年生まれ。三春師範学校を卒業し、実業家として絹織物工場や銀行の設立、常磐線開業などに尽力。富岡町夜の森の原野を開拓し、農場を経営した。県議、衆院議員も務めた。相馬野馬追小高郷の凱旋[がいせん]行事「火の祭」を考案した他、夜の森に桜の植栽を進めた。1932(昭和7)年に73歳で死去した。

